当院では、不妊でお悩みの方に向けて、鍼灸によるサポートを行っております。
鍼灸は妊娠そのものを直接起こす治療ではありませんが、「妊娠しやすい身体づくり」を整えることができます。
不妊とは
不妊(不妊症)とは、妊娠を希望して一定期間、避妊をせずに夫婦生活を続けても妊娠に至らない状態をいいます。
日本産科婦人科学会の定義では、この「一定期間」とは1年以上とされています。
西洋医学でみる不妊の原因
不妊の原因は一つではなく、男女双方に関与することがあります。
•女性側の要因
- 排卵障害(排卵が起こらない、または不規則)
- 卵管因子(卵管の閉塞や癒着)
- 子宮因子(子宮筋腫・子宮内膜症・子宮内膜ポリープなど)
- 卵巣機能の低下(加齢による卵子の質の低下を含む)
•男性側の要因
- 造精機能障害(精子の数や運動率の低下)
- 精路通過障害(精子の通り道に問題がある)
- 勃起障害・射精障害
•原因不明不妊
各種検査で明らかな異常が認められないにもかかわらず妊娠に至らないケースもあり、全体の約3割を占めるとされています。
東洋医学でみる不妊の原因
東洋医学では、妊娠には腎・肝・脾の働きと、体内の気・血・水のバランスが重要と考えられています。これらが乱れると、妊娠に適した体の環境が整わなくなります。
1.腎の不足(腎虚)
腎は生殖や成長、発育を司る臓腑です。
腎の力が弱いと、卵巣や子宮の働きが低下し、排卵異常や妊娠力の低下につながります。
•体質の特徴:腰や膝のだるさ、疲れやすい、冷えやすい
2.肝の滞り(肝気鬱結)
肝は気血の流れを調節する臓腑です。
ストレスや緊張で肝の働きが滞ると、血流が悪くなり、月経不順や排卵障害を起こすことがあります。
•体質の特徴:イライラしやすい、胸や腹部の張り、月経トラブル
3.脾の虚弱(脾虚)
脾は消化吸収と血の生成をつかさどります。
脾が弱いと、十分な血が作れず、子宮内膜がふかふかに育たないなど、着床しにくい状態になります。
•体質の特徴:疲れやすい、食欲不振、むくみやすい
4.血の不足(血虚)や血の滞り(瘀血)
血は妊娠に必要な栄養や子宮の環境を整えます。
血が足りない(血虚)と月経周期が不安定になり、血の巡りが悪い(瘀血)と着床しにくくなります。
•体質の特徴:顔色が悪い、手足が冷える、生理痛や経血異常
東洋医学では、不妊は単一の原因ではなく、体質や生活習慣、心身の状態が複合的に関わる問題と捉えます。
鍼灸治療では、これらのバランスを整えることで、妊娠に適した体の環境をサポートします。
不妊は特別なことではありません。
晩婚化やライフスタイルの変化に伴い、不妊に悩むご夫婦は増加傾向にあります。日本でもカップルの約6組に1組が不妊の検査や治療を受けていると報告されています。
不妊は決して特別なことではなく、多くの方が同じ悩みを抱えています。
妊娠を希望される方にとって大事なポイント
1.基礎体温の安定
妊娠を希望される方にとって、基礎体温の二相性は非常に重要なサインです。
二相性とは、排卵に伴って基礎体温が低温期と高温期の2つに分かれることを指し、正常な排卵が行われていることを示します。
低温期(卵胞期)
月経開始から排卵までの期間のことを指します。
- 体温は比較的低めで安定(約36.2〜36.5℃)
- 卵巣で卵胞が成熟している時期
高温期(黄体期)
排卵後から次の月経開始までの期間のことを指します。
- 体温が0.3〜0.5℃上昇して高めに安定(約36.7〜37.0℃)
- 黄体ホルモン(プロゲステロン)の影響で、着床に適した体内環境が整う

二相性が見られない場合のサイン
- 体温が一相のまま(単相性) → 排卵が起きていない可能性
- 高温期が10日未満 → 黄体機能不全の可能性
- ホルモンバランスや自律神経の乱れが影響している場合
鍼灸治療では生理周期を安定させ、排卵のリズムや高温期(黄体期)を整え、基礎体温の安定化を目指します。
2.子宮内膜を厚くする
子宮内膜の厚さは、受精卵が着床しやすいかどうかに直結します。
理想的な子宮内膜の厚さは排卵期(受精の可能性が高い時期)に厚さ8~12mm程度とされています。
薄すぎても着床しにくく、厚すぎてもホルモンバランスの乱れを示すことがあります。
子宮内膜の発育にはエストロゲンとプロゲステロンの二段階の作用が非常に重要です。

★卵胞期(生理開始〜排卵前)
主役はエストロゲン
卵巣の卵胞から分泌され、子宮内膜を厚く、血流豊かに育てる働きがあります。
内膜の層が増え、着床の準備が始まります。
目安:排卵前の内膜厚は約5〜8mm程度。
エストロゲンが不足すると、内膜が薄くなり着床しにくくなります。
★黄体期(排卵後)
主役はプロゲステロン
排卵後に黄体から分泌され、内膜を着床に適した状態に成熟させます(柔らかくふかふかのベッドにするイメージ)。
血管を増やして栄養を送り、受精卵が着床しやすくします。
高温期の基礎体温がこのプロゲステロンの作用を反映しています。
プロゲステロンが不足すると、内膜は厚くなっても「質」が悪く、着床率が下がります。
★まとめ:二つのホルモンの関係性
- エストロゲン:内膜の「量」を増やす(厚くする)
- プロゲステロン:内膜の「質」を整える(着床できる状態にする)
この二段階がうまく働くことで、受精卵が着床できる最適な内膜になります。
鍼灸治療をすると、骨盤内や子宮周囲の血流を改善し、エストロゲンとプロゲステロンの分泌が安定し、内膜の厚みや質が向上します。
より着床しやすい環境に整えることができます。
3.高温期の維持
高温期の維持は妊娠に向けて非常に重要です。
★高温期が短い・低いとどうなる?
高温期が10日未満の場合、黄体機能不全の可能性があります。
プロゲステロンが十分分泌されないため、内膜が着床に適した状態にならず妊娠しにくくなります。
高温期が極端に低い場合も同様に、着床環境が整わない可能性があります。
高温期を維持するために、タンパク質・良質な脂質・ビタミンB群・亜鉛などをバランスよく摂取することが大事です。
特に鉄分と葉酸は血流を良くして内膜の育成を助ける働きがあるので、積極的に取りたい栄養です。
鍼灸によるサポート
鍼灸は西洋医学的な原因と東洋医学的な原因の両方にアプローチできます。
- ホルモンバランスの調整
自律神経の働きを整えることで、脳と卵巣のリズムが安定し、排卵や月経周期が整いやすくなります。 - 血流改善
子宮や卵巣の血流を促し、子宮内膜が厚く育ちやすい環境を整えることで、受精卵が着床しやすくなります。 - ストレスの軽減
不妊治療に伴う心身の負担を和らげ、リラックスしやすい状態をつくります。 - 体質改善
冷え性・生理痛・月経不順など、不妊の背景にある不調を整えることで、自然に妊娠しやすい体質へと導きます。
体外受精(IVF)や人工授精(AIH)などの不妊治療と併せて鍼灸を取り入れることで、妊娠率が向上するという報告もあり、補完療法としての活用も注目されています。
治療回数の目安
- 週1回のペースが基本(3~6か月の継続が推奨されます)
- 体外受精や人工授精と併用する場合は、採卵や移植の前後にも治療を行うことをおすすめしています。
妊娠されてからも流産予防、つわりの緩和、安産を目的に治療を行います。
心も体も整えて、妊娠に向けた体づくりを
不妊の原因は人それぞれです。
当院では、しっかりとお話を伺い、不安なことやお悩みに耳を傾けながら、お身体の状態を診させていただきます。
そのうえで、一人ひとりに合わせた治療をし、妊娠に向けて心と体を整えるお手伝いをさせていただきます。
ゆっくり自分の体と向き合いながら一歩ずつ進んでいきましょう。














