顔面神経麻痺とは、第7脳神経である顔面神経が何らかの原因で障害されることによって起こる病態の総称です。
代表的なものとしてベル麻痺とラムゼイハント症候群(ハント症候群)が知られています。
その他にも、耳の炎症、腫瘍性疾患、耳鼻咽喉科疾患などが原因となることがありますが、顔面神経麻痺の多くはベル麻痺またはハント症候群に分類されます。
ここでは主に ベル麻痺 と ラムゼイハント症候群(ハント症候群) について説明します。
ベル麻痺
ベル麻痺は、もともと原因が特定できない(特発性)片側性の末梢性顔面神経麻痺を指す病名でした。
しかし近年では、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)の再活性化による神経炎が主な原因と考えられています。
発症年齢は40〜50歳代に多いとされています。
突然、以下のような症状が片側の顔に現れます(両側に起こることは稀)。
運動神経成分の症状
• 目を閉じることができない
• 口角が下がる
• 口が閉じにくい
• 食べ物や飲み物が口からこぼれる
• ほうれい線や額のしわが消える
感覚神経成分の症状
• 味覚低下(舌の前2/3)
• 聴覚過敏
副交感神経成分の症状
• 涙や唾液の分泌低下
また、以下のような状態の方は発症しやすいとされています。
• 糖尿病
• 上気道の炎症(鼻や喉の病気)
• 免疫力の低下
• 妊娠中
ベル麻痺は比較的予後が良好であることが多いとされています。
ラムゼイハント症候群(ハント症候群)
ラムゼイハント症候群は、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が再活性化し、膝神経節に炎症を起こすことで発症します。
発症年齢は
20歳代と50歳代の二峰性のピークがあります。
特徴的な症状として、
• 片側の耳介
• 外耳道(耳の穴)
• 鼓膜
• 口腔粘膜
などに痛みを伴う水疱が出現します。
さらにベル麻痺と同様の顔面神経症状に加えて、
• 難聴
• 耳鳴り
• めまい
• 眼振
など、内耳神経や前庭神経の症状を伴うことがあります。
ただし、
• 水疱
• 顔面神経麻痺
• 内耳症状
この3つがすべてそろう典型例(完全型)は60%未満とされており、
水疱を伴わない 不全型ハント症候群(Zoster sine herpete:ZSH) も存在します。
ハント症候群はベル麻痺と比較して予後が悪い傾向があります。
顔面神経麻痺の原因の割合
顔面神経麻痺の原因の内訳は以下のように言われています。
• ベル麻痺:約60%
• ハント症候群:約10〜15%
この2つで全体の約70%を占めます。
病院での治療
ベル麻痺・ハント症候群ともに、急性期の薬物療法が基本となります。
主に以下の薬が使用されます。
• ステロイド(プレドニゾロンなど)
• 抗ヘルペスウイルス薬(アシクロビルなど)
• ビタミンB12
• ATP製剤
• 循環改善薬
重度の麻痺や薬物療法で十分な改善がみられない場合には、
• 手術
• ボツリヌス毒素治療
などが検討されることもあります。
予後評価
予後の評価には ENoG(Electroneurography) が有用とされています。
これは神経を電気刺激し、筋肉の反応を測定する検査です。
ただし神経変性は障害部位から末梢へ進行するため、発症直後では正確な評価ができません。
顔面神経麻痺では、
神経変性が障害部位より末梢まで進行するまで 約7〜10日かかるため、
この時期以降に検査を行う必要があります。
ENoG値の目安
• 41%以上 → 約1か月で治癒することが多い
• 21%以上 → 予後良好
• 10%以下 → 半数は完全回復せず、回復まで6か月以上かかることが多い
また、麻痺の程度を評価する方法として
• 40点法(柳原法)
• Sunnybrook法
などがあります。
顔の各部位の動きを評価し、合計点数によって麻痺の程度を判定します。
顔面神経麻痺が起こる仕組み
ベル麻痺やハント症候群は、
初感染時に膝神経節に潜伏感染したウイルス(HSV-1、VZV)が再活性化することで発症すると考えられています。
再活性化したウイルスにより顔面神経に炎症が起こり、顔面神経管という細い骨のトンネル部分で、
- 神経が腫れる
- 神経が圧迫・絞扼される
- 血流が悪くなる
- 虚血状態になる
という悪循環が起こります。
この結果、神経の機能が低下し、顔面神経麻痺が発症します。
糖尿病などの基礎疾患がある方は血流が悪くなりやすいため、回復に時間がかかるケースもあります。
当院の鍼灸治療
当院では、顔面神経麻痺に対して
• 発症直後の急性期
• 発症から数か月〜数年経過した慢性期
いずれの段階でも治療に対応しております。
治療では、髪の毛ほどの細い使い捨ての鍼を使用し、
損傷した表情筋や顔面神経に対してやさしく刺激を行います。
局所治療では、
• 検査結果
• 麻痺の程度
• 日常生活で気になる症状
などを総合的に評価し、治療部位を調整しながら行います。
また当院では、
• 迷入再生を促進する可能性のある強い随意運動
• 顔面部への神経筋電気刺激(低周波療法)
などの禁忌とされる治療は行っておりません。
後遺症に対する治療
顔面神経麻痺では、発症から4〜6か月以降に
• 病的共同運動
• 拘縮
• 筋けいれん
• ワニの涙
などの後遺症が現れることがあります。
これは迷入再生(神経の誤った再生)が原因とされています。
鍼灸治療では、
• 硬くなった筋肉の緊張緩和
• 血流改善
• つっぱり感や痛みの軽減
などを目的として治療を行います。
顔面神経麻痺は早期からの適切な治療が回復に大きく影響します。
顔の動きの異常や違和感など、気になる症状がある場合は
できるだけ早めにご相談ください。












